エジプト問題を考える

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久しぶりのブログ更新になります。このところ、ちょっと考えたことはすぐにTwitterにポストしてしまうので、なかなかブログ「記事」にするほどネタが「溜まらない」状況が続いていましたが、やっと書けそうな気がします。

現在メディアに登場しない日が無いと言えるのが、「エジプト問題」でしょう。 長期政権によって権力を独占してきたムバラク大統領が、日に日に追い詰められています。 反政府デモの参加者は増える一方でしたが、ここ数日、「政府支持」のデモが「突如」として出現し、両者は激しく対立、流血の事態となっています。 報道によれば、この「政府支持」勢力は、秘密警察官による官製デモだとのことで、これによってムバラク大統領の立場はますます批判されることになっています。

そして、この問題は、日本にとって、またキリスト者にとって非常に根深い問題をはらんでいます。 それは以下の理由に寄ります。

(1) アメリカ、イスラエル、欧米諸国はこれまで、エジプト国民から見れば「独裁者」の印象が強いムバラク大統領を、「中東の盟主」として支持し、莫大な軍事的・財政的援助を行ってきた。

(2) エジプトにおける反政府デモの参加者は、アメリカ発の Facebook に代表されるようなオープンな通信手段を用い、これも従来アメリカが中東政策に関与する大義名分としてきた「自由」を要求した。それ故に、アメリカは表だっての反対はしにくい。

(3) その反政府デモを支持しているグループの一つに、イスラム原理主義の立場を堅守し、もし政権を取るならばイスラエルとの平和条約を破棄すると言明している「ムスリム同胞団」が加わっている。 もしその通りになれば中東のパワーバランスは一気に変化し、イスラエルは窮地に立たされ、アメリカの中東政策は崩壊する。

上を読んでおわかりだと思いますが、1~3は、互いに相反する内容になっています。 というかイスラエルやアメリカにとっては、これ以上ないほど皮肉な状況と言えましょう。 イラク戦争を巻き起こしたアメリカは、その大義名分として当初「大量破壊兵器の存在」を上げたわけですが、その情報が誤りと分かると、今度は「イラク国民の自由」に大義名分を切り替えました。これは世界が知る所です。

ところが、今や、エジプト人が同じように「自由」を訴えながら、親米政権を打倒しようとしているのです。 アメリカとしては、「自由」を否定するわけにはいきません。 それは、彼らのアイデンティティに関わる問題であり、もしそれを否定するなら、世界の誰もアメリカを相手にしなくなります。 ですから「エジプト人には選択の自由がある」と語り、また「速やかな政権移行を臨む」と表向きはデモを支持しているかのような態度を取っていますが、「ムバラク」の名は一切出していません。そこには、「ムバラクに退いてほしくは無い」という「本音」が、ありありと見て取れます。 しかし打つ手は一切無く、推移を見守るしかない。 これは、アメリカにとっては歯ぎしりするような状況といえましょう。

ではなぜこのような状況になったのか。 それはひとえに、「自由」という歌を高らかに歌い上げながら、その自由を抑圧する指導者を公然と支持するという二枚舌をこれまで平気で行ってきたが故、でしょう。 そこには恐るべき矛盾がある。 結局のところ、中東政策においてアメリカが持ち出す「自由」というのは、イスラエルを守るための方便に過ぎないことが、今回改めて鮮やかに示された、ということでしょう。 アメリカは、自分たちがしてきたダブル・スタンダード外交の高いツケを、今後長い年月をかけて支払わなければならなくなるでしょう。 それが、今回の事件を見ていて感じることです。

そして、もう一つ。 ことによると、こちらの方がより深刻だと思うのですが、忘れてはならないことがあります。 それは、「今回の事件は、イスラム勢力が合法的に国を乗っ取るためにはこうすればよいのだ、というやり方を天下に示してしまった」という点で、より深刻だと私は思うのです。 というのは、自由主義陣営の国々は、「民主的な政治が行われていない」として中東の国々を批判するわけですが、もしそういう国々でイスラム原理主義勢力が、表向き民主的な「デモ」を組織して独裁者の罪を糾弾させ、それに乗じて政権を自分たちに委譲をさせれば、自由主義陣営の国々に一切文句を言われる余地を与えずに、合法的にイスラム原理主義政権を樹立することが可能になるからです。そしてこの場合「エジプト人の民主的な選択」ですから、アメリカに口出しする余地は一切ありません。 アメリカは、自分たちが押しつけようとした「自由」によって、痛烈なしっぺ返しを食らうことになったわけです。

今となっては、エジプト人のが理性的な判断をし、原理主義勢力を排除するか、少なくとも主流には置かない、という方向に向かってくれるかが最後の砦と言っても良い状況だと、私は思っています。 しかし、このことは、回り道してでも、初めからアメリカが取るべきであった政策なのです。 地道な根回しと文明間の対話の努力を省略し、軍事力と資金援助という手っ取り早い手段のみに頼った結果が、今の中東世界です。

私は、イスラム教原理主義は、アメリカに代表される自由主義陣営(当然日本も含む)による誤った中東政策が生み出した「作られたセクト」だと考えています。抑圧された状況が続くと、民衆は過激で極端な主張に耳を傾けやすくなります。 太平洋戦争に突き進む時の日本が良い例です。 あの時代、貿易はストップし、経済は封鎖され、日本は行く先が見えぬままでした。 そんなとき、強硬論が幅をきかせるようになり、開戦の大合唱が和解の声をかき消してしまいました。 同じことが第二次大戦後の中東で、起きてしまったのだと思います。 人は、歴史から学ぶことは何と難しいことでしょうか。 いや、過去から学べないということこそ、人間の根本的な罪とも言えるのかもしれない、と思うのです。

・・・

そういう訳で、今後中東では、イスラム原理主義勢力が活気付く可能性が高いように思われます。 これは、今後の世界情勢にとっては、決して幸先良い話ではありません。 何より、キリスト者である私たちにとっても、無関心ではいられない話です。

2011年が、後から振り返って、「あの時が turning pointだった」と思われる年になるのか。

しばらくはエジプト情勢から目が離せそうにありません。

コメント

  1. いけだ より:

    高校時代、部でご一緒だった池田です。
    ごくまれにHP拝見してますよ。
    確か仙台に移られたということで心配だったのですが、無事だったようでなによりです。
    ツイッターやってないので、こちらに書き込みました。
    皆様の一日でも早い復興と、今後ますますのご活躍をお祈りしています。
    P.S.よしきとはたまに会います。私も結婚して今は多摩住まいです。

  2. さの より:

    神学校後輩の佐野です。
    心配して祈っていました。
    無事で何よりです。
    ツイッターの書き込みを見てホッとしました。
    皆様の慰めと励ましを続けて祈ります。

  3. ゆーぼー より:

    エジプト情勢は、毎日新聞に掲載されているけど、
    ムバラク大統領を退陣にまで追い込んだ国民の
    怒りは相当なものだったんだろうね。
    それにしても北アフリカ地域の連鎖的な反政府デモは、一体どういうことなんだろうかね。
    チュニジアなんかも1月に政権が崩壊して、前大統領が亡命した先で危篤なんて状況らしいし。
    国民が皆独裁政権に対する不満をずーっと持ってたってことかなー。
    それぞれの地域に対するデモが起こった原因は、ひとくくりにできないだろうけど、ホント大変な状況になってて目が離せないね。

  4. キリスト者が考えるべき「エジプト」 - ①情勢分析

    昨日と今日、無事にLCFの初回の礼拝を終えました。さらに新しい方々が来られて、主の新鮮な御霊の働きを感じました。 ところで、続けてエジプトの事についてお話したいと思います。日本人の牧師さんで、この問題について次のようにまとめておられる方がいました。 (1) アメリカ、イスラエル、欧米諸国はこれまで、エジプト国民から見れば「独裁者」の印象が強いムバラク大統領を、「中東の盟主」として支持し、莫大な軍事的・財政的援助を行ってきた。 (2) エジプトにおける反政府デモの参加者は、アメリカ発の Faceboo…