タイルUIはなぜ使いにくいか

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巷ではWindows 8が発売され、PC業界は久々の活況となっています。 景気という面からはこれは喜ぶべきことなのかも知れませんが、個人的には私はあまり喜んではおりません。

なぜか。

それは、Windows 8が次世代のデザインスタンダードとして強く推進しているModern UIというデザインに、どうしても馴染めないからです。 Moder UIとはどういうものかは、Windows 8を使用すればすぐに理解できるでしょうから本稿では触れません。 要するに、単純な罫線で画面を区切り、原色系の色で塗り分け、白一色のフォントで文字を書いて情報を伝えようとする。そういうアプローチです。 私はこれを「タイルUI」と呼びたいと思います。

実は、このタイルUIはウェブサイトや、様々なソフトウェアの最新版にも次々と反映されるようになって来ています。 例えばSkypeの最新版はもうまさにこのタイルUIですし、TeamViewerというリモートデスクトップソフトウェアも追従しています。 ウェブサイトにもこの動きは広がっていまして、その代表例はインプレス社の「Watch」という、IT系のコアな情報サイトです。 実際にサイトを見て頂ければすぐに分かるのですが、以下にスクリーンショットを貼っておきます。

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私がとりわけ見づらさを感じているのは、上の画像の最上部にある、メニューバーの部分です。拡大すると以下のようになります。

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なんだ、全然見づらくないじゃないかと思う方もいるかも知れません。ところが、これが見づらいのです。その理由を以下に挙げます。

1.余りにも平坦なので境界が分かりにくい

タイルUIの基本は、何の装飾も施さない単純な罫線でボタンを区切る、ということです。 一見すると合理的に見えますが、上記の画像のように区切り線が1ピクセルしかないような細さの場合、どこからどこまでがボタンなのかが、一目では分かりません。 特に文字が詰まっている場所(上のHeadlineとクラウドの間など)はその傾向が顕著です。

Watchでは、視認性を少しでもあげようとしたのか、各ボタンの下側を色分けして、違いを出そうとしてます。 …ところが左側4つのボタンは余りにも似た色であるため、色で区別するのは不可能なほどです。さらにこのボタンは、サイト本体の地の色である白色と同一の色であるため、そもそもボタンであることが分かりにくい、という問題もあります。 何らかの色を付ければすぐに分かるのですが、この場合、背景に溶け込んでしまっているのです。 これはデザイン上の大きな欠点だと思います。

2.どのボタンが押されているのかが分からない

こちらの方がより大きな問題だと思いますが、今現在見ているのはHeadlineというサイトなのですが、上記のボタン画像を見る限り、それが全く分かりません。 全部が同じ色だからです。 今回はまだ左端なのでよいのですが、これが真ん中付近になると、大きな問題となって現れます。 上の例でいうと、たとえば最初にAKIBAをみたとしましょう。 そしてその後にAV(Audio & Visual)に行こうと決めていた、とします。 AKIBAを見終わりました。 さあAVはどこだ…?となった時、今自分が居るはずのAKIBAに、それを示す何の表示もないため、訪問者はいちいち「AV」という文字を一から探し直す羽目に陥ります。 小さな手間ですが、これは実は大きなマイナスポイントです。 なぜなら、ボタンが地の色と同じなのでそもそもボタン自体が探しづらくなっているのに、それに輪を掛けてワンステップ増えるからです。

Windows 8では、このあたりはかなりよく考えられてはいるようで、少なくとも起動直後の画面がそれほどみづらい、という雰囲気はありません。 公式サイトを見れば分かりますし、RT版を使った経験から言ってもそうです。 各タイルの間は太い黒の線で区切られていますし、ボタンは見分けやすい色でちゃんと塗り分けられています。 これなら問題は無い、と思うかも知れません。

ところが、ひとたびアプリケーションを立ち上げ、そのアプリにもタイルUIが適用されていた場合、途端に使いにくくなります。 なぜなら、上に上げた問題が出てくるからです。 特にメニューの部分でそれが顕著です。 メニュー領域は狭いので、太い線で区切る訳にも行かず、かといって、多くの色で塗り分ける訳にも行かないからです。

その結果どうなるか。

真っ白な紙の上に、アイコンや文字がバラバラッと並べられた雰囲気になります。 言葉で言っても分からないので実例を示すと、来年に出ると言われる Word 2013 の画面例を見てみましょう。

いかがでしょうか。 非常に目が疲れる印象はないでしょうか。 え?疲れない? そういう方は大丈夫です。 どうぞお使いください。

私にはこれは悪夢にも等しい画面です。 白が強すぎますし、画面にコントラストが余りにも無さ過ぎるために、パッと見て何がどこにあるかが分かりにくいのです。 私にとっては、現在使用している Word 2007 の画面の方が、圧倒的に見やすく感じます。

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この違いがどこから来るのかと言うと、以下の点にあると思います。

  1. 用紙の境界が色で分かり、入力できる所とそうでない所が一目瞭然である。(=コントラストが高い
  2. ボタンが、実物のボタンに近いデザインで、「押す」という動作を模して作られているため一目で分かる。(=実世界をシミュレートしている
  3. 白の
    領域が少ないので目が疲れにくい。

正直な所、私は未だにMicrosoftがなぜタイルUIを採用したのか、未だに理解できない思いでいます。 初心者にとっては、ボタンがボタンだと分かることは非常に重要なことです。 ところが、Word2013のUIでは、それは全く分かりません。 これでは、Word2013からパソコンを使いだした人は、さっぱり使い方が分からないでしょう。

Microsoftのこのデザインポリシーは、実はAppleのそれとは正反対を目指したものです。 Appleのデザインポリシーは、「実世界に存在するものに、できるだけ近づけてデザインする」ということです。 手帳であれば手帳の革の柄、紙の重なり具合、バインダーの輪までも写実的に示したりします。 また、ボタンについては「どうみてもこれボタンにしか見えない」というくらい、盛り上がっていたり、陰を付けたりして、実物らしく見せかけています。

このAppleのデザインポリシーについては、評価する人とそうで無い人がいますが、少なくとも確実に言えることは、「初心者にとって分かりやすいのは、Appleのデザインポリシーである」ということです。 なぜなら、「見て明らか」だからです。 実世界のものを模しているのですから当然のことです。 思うに、これこそがApple製品が評価される最大の理由だと私は考えています。

・・・

私はWindows3.1時代からWindowsを使ってきました。 Windows 7になって、その美しいデザインと、その軽さをかなり気に入ってきました。 ところが、今回のWindows8は20年前のWindows3.1に戻ったかのようです。 新しい潮流を作り出そうとするマイクロソフトの心意気は認めたいと思います。シンプル・イズ・ベストという信念も、時には大切でしょう。

けれども、Windows3.1の時代は、比較対象がなかったのでタイル的なUIにも疑問を持ちませんでしたが、iOSやMacのデザインがこれ程社会に浸透してしまった今の時代に、このデザインは正直「無いでしょう」と言いたいと思います。

Windows8が発表されたとき、20年近いWindowsユーザーの私は、Windowsから離れる決心が付きました。 それくらい、今回のタイルUIは私には合わないUIです。 そして、これは私だけでは無いと思います。 Windows8が浸透してくるにつれ、長時間モニタを見続けるオフィスワーカーの眼精疲労が激増することでしょう。 ストレスも、増えることはあっても減ることは無いと思います。 特に、タッチ画面ではなく、マウスとキーボードでWindows8を使う人(オフィスワーカーの大多数がそうだと思いますが)にとっては、本当に厄介な問題になると、懸念しています。

願わくば、Windows9では、元の方向に戻ってくれることを期待したいですが、その頃には私は完全にMacに移行していることでしょう。

残念ですが、このようなUIでは、長時間モニタを見続けるような仕事はできない、と結論付けざるをえません。本当に残念、無念ですが、仕方が無い所です。 他に良いチョイスがあるのですから…。

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