近頃、また思い出したかのように、「電子ブック」というカテゴリが脚光を浴びつつあります。その原因の一つは、Amazon が「Kindle」という電子ブックリーダーを日本でも発売したことにあります。
この Kindle は、元々はB5サイズより少し小さいくらいの大きさで、モノクロ液晶と携帯通信モジュールを装備して、自動的に購入した電子ブックをダウンロードして読めるようにしてくれる、という、なかなかの優れものです。(詳しくは こちら をご覧下さい)
この Kindle、つい先日パソコンでも読めるリーダーが提供開始されるなど、これからが注目ですが、日本語表示に対応していないという問題があり、日本で本格的に浸透するのはまだまだ先の話になりそうです。
とはいえ、英語圏の人々や、日本在住で英語文献を読みたい人にとっては、ひとつの選択肢になります。なぜなら、紙媒体よりも廉価で入手できるからです。特に、電子ブックというものに恐れを抱いている人のためにでしょうが、「ページ」という概念も、擬似的に残してあるようです。
そのことについて、問題提起をしている人がいました。
人は、いったいいつまで印刷を前提に文書を作るのか [PC Watch]
上の記事が言っていることは、「そもそも電子ブックはページをめくる機械ではなく、コンテンツを読む機械のはず。ページという概念はなくして欲しい。ついでにウェブページもそうして!」というものです。
私はこれを読んで、「う~ん」と考え込んでしまいました。電子ブックの利点と欠点が、もろに出てきているなと思ったからです。そして「まだ当分の間は、紙媒体の本は無くならないだろう」と思いました。
というのは、私たちの脳は、ページの概念なしには系統的な学習をできないようになっていると思うからです。たとえば聖書を読む時も、ページをめくりながら、「右上の段の真ん中らへんに○○という聖句があるなぁ」などと無意識のうちに情報を脳にインプットしながら読んでいます。だからこそ、「あの御言葉どこだっけ・・ああ、ここだ!」と分かるわけです。
電子ブックとなると、これができません。上→下、あるいは右→左、という一方向でデータが流れて行くのみ。どこまで行っても流れ続けるため、全体の中で今自分はどこを見ているのか、という情報が皆無に等しいのです。そんなとき、私たちの脳は漠然とした不安定感を感じているのではないでしょうか。
よく、ウェブページの記事を、下にスクロールしながら読んでいると、突然それ以上スクロールできなくなって、そこで初めて「この記事はここで終わったんだ」ということに気づき、がっかり or 驚き を感じると言った経験をします。そして、電子ブックはあのときの戸惑いにも似た感覚を読み手に与え続けるように思います。
紙の本であればそういうことはありえません。ページを持つ手が、「残り頁数は多いか少ないか」を触覚で伝えてくれますし、本を持つ右手と左手の重量バランスからも、それは分かります。つまり、紙媒体というものは、視覚以外の感覚も利用できるため、現実世界との関連性がより深い媒体だと言えます。
電子ブックというのは、視覚だけに頼る媒体であるため、必然的に読み手に不安感を与えるのではないでしょうか。丁度、暗闇を目だけに頼って歩いているような、そういう感覚に近いものがあると思います。
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私たちは、幼少の頃から紙媒体によって教育を受けている世代です。私たちの脳は、紙媒体に最適化されており、電子ブックに対する違和感を完全に無くすることは難しいのではないかと思います。今後、公教育が電子ブック化する可能性もあるかもしれませんが、その時は、ますます人間の五感は退化していき、人間らしさを失った人々があふれかえるように思えてなりません。
かくいう私も、電子ブックを日々読んでいます。高価な英語の聖書注解や辞書などです。そのような時、電子ブック特有のメリットはあるけれども、やはり本で読んだものの方が、頭に入る度合いが深いように感じています。
何でも電子化されていくのが現代と言えますが、そんな中でも紙媒体の利点は永遠に無くならない。
今日はそのような思いを新たにしました。
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コメント
私は昔、紙・プラスチックフィルム関係の出版社で編集の仕事をしていましたが、紙の業界団体は、当時普及され始めたばかりの「パソコン」「インターネット」という媒体に対して、あたかも黒船が来たかのように、相当の恐れを感じていました。
しかし、詰まるところの結論は「紙媒体はしばらく無くならないだろう」というものでした。
実際、いまだに、アサヒ・コムやmixi、Yahoo JAPANのような、お節介とも言える親切な媒体ができたところで、多くの人は紙の新聞を定期購読し、週刊誌を買ってきて、ハガキや封書を多用しています。
私自身、新聞は定期購読しないで、インターネットに頼っているので偉そうなことは言えませんが、確かに「J-ばいぶる」で聖書通読しようという気にはなりませんからね(笑)。