サイボーグ・ラットの驚き

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立花隆氏によるコラム、


脳内チップが未来を変える! 米国サイボーグ研究最前線
 [nikkeibp.jp]

を非常に興味深く読んだ。アメリカの「生体ロボット化研究」の先端をリポートしたものである。「驚くべきものを見た」というそれは、
脳に半導体チップを埋め込まれたラット、「ロボ・ラット」である。脳の運動神経に電気刺激を与えることで、ラットを思うままに「操作」(
『操る』と言った方が正しいかもしれない)することができる、という。実際、迷路を走らせて、
右に行くとか左に行くとかをコントローラで指令を与えると(たぶん、プレステのコントローラのようなものだろう)、
その通りに動くのだそうだ。そして、動きが終わると、ラットの快楽中枢に電気信号を送り、ラットに「ごほうび」をあげるのだそうだ。
ラットはその信号を感じて、うっとりとするらしい。(「素(す)のラット」ならば甘い水やエサをあげるところだが。)

ありふれた言葉だが、「ついにここまで来たか」、という感がある。
ほ乳類の神経系が歴然たる電気システムであることを大学で学んで感動したときのことを思い出す。私がいた大学では、
頭と四肢に電極を取り付け、麻痺した腕を動かす試みを行っている研究室があり、その時は素晴らしい研究だと手放しで思っていた。実際、
麻痺した腕が動くようになることに利益はあれど、害はゼロというのが、普通の人の考えることだろう。

しかし、である。このラットのように、完全に脳を「乗っ取られ」てしまうことが、人間でも不可能ではないと、だれが言えるだろうか。
このラットの研究をしている研究者は、パーキンソン病などで動作が困難になった人への応用が目的で、「サイボーグ化」
などは全く考えていない、と言う。たぶん、この人は本当に善意で研究を行っているに違いない。それでも、
世の中の人全てがこうした善意で動いているわけではないのである。むしろ、ちょっとでも悪意のある人間なら、
あるいは権力志向が強い人間なら、これを「利用したい」という強い誘惑に駆られるに違いない。

過去の歴史を見ても、テクノロジーはつねに権力や貪欲と結びついて発展してきたといえるだろう。飛行機にしても、原爆にしても、
昨今のバイオテクノロジーにしても、背後には必ず人間の欲があるのである。私たちは、
何人も自分の意思に反して行動することを強制されない自由を持つ。しかしそれすらも脅かされる日が、何十年か先には、
うっすらと見えようとしているのである。

テクノロジーによって得る「幸福」は、つねにそれによって失う「自由」を考えながら、生み出されなければならない。
後者を考えずに技術革新だけを追い求めるなら、それは必ず悲劇をもたらす。歴史は、そのことを証明している(と、私は思う)。

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