このところの日本は、コロナウィルス感染症に関するニュース一色となっています。本稿執筆現在(2020/3/10)、小中高校の休校通知が出され、大きなイベントの中止なども相次いでいます。このような文脈で教会関係者にとって最も気がかりなのは「礼拝をどうするか」ということです。
できるだけ接触を避けるためには「中止」しかありません。しかし次善の策として「感染対策を綿密に行った上で、来られない人に対してはインターネットライブ配信中継にて礼拝に参加して頂く」という方法があります。特にスマートフォン全盛の時代で年配の方も大半の方はスマホを所有しておられますから、この方法は非常に効果の高いものと思われます。
しかし、多くの教会関係者にとって「インターネットライブ配信」は難しく思われるのも事実でしょう。そこで本稿では、そのような方を対象に分かりやすくやり方を解説したいと思います。なお筆者はこれまでに300〜700人が集まる比較的大規模な3つの集会でライブ配信の運営を担当した経験があります。
以下では、全てに共通する前準備を記した後、予算・スキル別に3つのコースをご紹介したいと思います。
Ⅰ.前準備
1.なぜYouTubeなのか
読者の中には、「ライブ配信のサービスは沢山あるのに、なぜYouTube Liveを使用するのか」という疑問を持たれた方もおられると思います。確かに、Facebook Live、LINE Liveなど、無料でできる名の知られたライブ配信サービスは沢山あります。その中でYouTube Liveが優れているのは、以下の点でしょう。
- 面倒な登録なしに見ることができる
Facebook、Twitterは、アカウント登録をしなければ(基本的には)見ることができません。またLine Liveはアプリのインストールと設定が必須で、時間も30分までと制限があります。新型コロナウィルス感染症への対策として礼拝のライブ配信を見る人の多くは高齢者と予想されますので、この時点で一気にハードルがあがります。その点、YouTube Liveはスマホさえあれば誰でも確実に見ることができます。つまり、最初のハードルが圧倒的に低いのです。
- Androidユーザーは最初からアプリがインストールされている
これは大きな利点です。もちろんYouTubeはアプリ無しでブラウザーでも見ることはできますが、アプリを使用した方が快適なのは確実です。高齢者の多くがしようする「らくらくスマホ」でもYouTubeアプリは初めから入っていることが多いのも利点です。
一方、もちろんYouTube Liveにも弱点はあります。それは、
- スマホから配信するためにはチャンネル登録者数が1,000名を超えていなければならない
という点です。これは礼拝のライブ配信という用途にとっては「ほぼ不可能」な数字と言えるでしょう。つまり、YouTube Liveを利用したライブ配信には、必ずパソコンが必要ということになります。ただ、ライブ配信を実行しようという教会ではWi-Fiも既にあるでしょう。そのような教会にパソコンがないということはほぼ考えにくいと思われます。ですから、上記の弱点は問題にはならないものと思われます。従って、当記事ではYouTube Liveを利用することを前提にしたいと思います。
2.YouTubeアカウントの取得と設定
このページをご覧の方の大半は、すでにGoogleのアカウントを取得しておられることでしょう。基本的にはそのアカウント情報を使えば配信は可能です。但し、当然ながら、GoogleアカウントはGmail等とも共通になっていますので、奉仕者にアカウント情報を教えるとメールの内容も見ることができたり、アプリの購入なども出来るようになります。ですから、できるかぎり「教会専用のアカウント」を新たに作成してから配信することをオススメ致します。
ただこの場合でも問題が一つあります。それは「登録者名を誰にするか」ということです。多くの方は以下のアカウント作成画面において、教会の名前をどう入力すべきか、四苦八苦されるようです。例えば「日本キリスト教会」という名称だった場合、姓に「日本キリスト」、名に「教会」などとしてしまうのです。
結論から言えば、そのような方法は一切必要がありません。ここでは素直に、牧師の名前、もしくは奉仕責任者の名前を入力してアカウントを作成しましょう。なぜなら、YouTubeにおいては、上記の氏名の他に「ブランドアカウント」という別称を付けることができ、チャンネルの紹介画面に表示されるのはそちらの名称になるからです。ブランドアカウントの作り方については、以下のGoogleのヘルプページの下部にある「新しいチャンネルを作成する」のところに書いてありますのでご覧下さり、ブランドアカウント名を教会名にしておきましょう。
Google アカウントとは別の名前を YouTube で使用する
なお作成したアカウントは、悪用を避けるために、ログイン時にスマートフォンにSMSが送られるようになる「二段階認証」を必ず設定しましょう。設定は以下のページから行えます。
また、ブランドアカウントの「プロフィール写真」だけは教会の写真などをアップロードして、設定しておいた方がいいでしょう。そうするとYouTubeのチャンネルページにもその画像が表示され、間違いなく教会の中継ページを見ていると安心することができますので。
ここから下の記事はすべて、上記のGoogleアカウントの設定が終わっていることが前提となります。
Ⅱ.お手軽コース
最初の方法は、最もお金が掛からず、簡単に行うことができる方法です。
1.必要なもの
以下の二つだけです。
・ウェブカメラ内蔵のパソコン(WindowsでもMacでも可)
・インターネット回線(Wi-Fiでも有線でも可。リンク速度は最低でも10Mbps程度は必要)
2.最初の設定
まず、ブラウザーでYouTube(https://youtube.com)を開き、「前準備」で作成したアカウントでログインします。すると、右上にカメラのアイコン(赤で囲まれたアイコン)がありますので、そこをクリックします。
すると「ライブ配信を開始」という選択肢があるので、そこをクリックします。
3.アカウントの確認
すると、「アカウントの確認」という画面になります。これはライブ配信の悪用を避けるために携帯電話番号の登録を行うための画面です。これはどうしても必要な手続きですので、実際にライブ配信を行う人の携帯電話番号を入力するのがよいでしょう。入力した番号にSMSが送られてくるので入力します。
アカウントの確認が終わると、次のような画面になります。ここで注意点ですが、新規に作成したアカウントは作成後24時間程度経過しないと、ライブ配信が行えません。従って土曜日に作成したりすると日曜日に間に合わないことになります。ですからここまでの処理は必ず金曜日まで行っておくようにしましょう。
4.ライブ配信の設定
24時間経過した後で、YouTubeの画面を開き、上記「2」の画面のボタンを再度クリックします。すると以下の画面が表示されます。これは、ウェブカメラを利用した配信の設定画面です。
最上段は、教会名とライブ配信名を書くと良いでしょう。
重要なのはその下の行です。初期設定ではここは「公開」になっています。このままにすると、全世界のYouTubeユーザーが見ることができてしまいます。カメラに映る人が牧師だけであれば良いのですが、信徒の方の奉仕者が映る場合は個人情報の面で懸念があるでしょう。そのような場合は「限定公開」にすることをオススメします。そうすれば、ランダム化された配信ページのURL(インターネット上のアドレス)が生成されますので、これを知らせた人にのみ限定して公開することができます。
次に「後でスケジュール設定」の所から、礼拝の開始時間を設定します。その下は子ども向けコンテンツかどうかを申告する欄ですが、どちらも「いいえ〜」を選択しておきましょう(「はい〜」を選択すると厳密なコンテンツ内容の調査が行われますからお気をつけ下さい)。
「その他のオプション」のところはこのライブ配信の詳しい説明になります。入力しなくても構わないのですが「ブログ」となっているところは「非営利団体と社会活動」にしておくと良いでしょう。
5.サムネイル写真の登録
最後に「次へ」をクリック・・と行きたいところですが、ここで注意があります。それは、以下のように、このあとすぐにサムネイル写真の撮影のカウントダウンが始まることです。サムネイルとは、見本用の小さい写真のことです(注:以下の写真は私の自室の天井です)。
心の準備ができていないと焦ってしまいそうですが、結論から言うと、この画像は後から変更できるので、この段階では適当に撮っておけば大丈夫です。具体的な変更方法は、撮影後の画面で、画像の上にマウスカーソルを置くと、以下のような変更メニューが表示されます。
ここで「カスタムサムネイルをアップロード」を選択します。あとは、教会の外観写真や礼拝堂の写真、聖書の写真など、手元にある写真を選択すれば、その写真がサムネイルになります。
6.限定配信用URLを取得する
次は、礼拝を関係者のみに公開する「限定公開」にした場合に最も重要な部分です。
YouTubeの限定公開用のURLを取得して、礼拝前に何らかの手段で教会員に伝えなければなりません。そのためには、上の画面の「共有」のボタンを押します。すると、以下の赤いボックス内にURLが表示されます(※画像加工してあります)。これをクリップボードにコピーしておきましょう。
あとは、このURLを礼拝までに教会員にメール・LINE・メッセンジャーなどの手段で知らせておきます。
毎週知らせるのが面倒な場合は、教会のウェブサイト上にライブ配信用の固定ページを作成します。そして、例えば https://教会名.com/live などの分かりやすいアドレスを割り振っておき、このページに上記のURLを貼り付けて、なおかつパスワードで保護します。このパスワードは高齢者の入力の手間も考えて5〜8文字くらいで、かつ、意味のあるフレーズが良いと思います(例:教会の略称、聖書箇所、等)。
あとは上記の簡単なアドレスとパスワードを週報にあらかじめ掲載しておけば、毎週変わる限定公開のURLをいちいち連絡しなくても済み、便利です。
7.実際の配信
ここまでの作業が終わったら「完了」を押します。すると、以下のような管理画面になります。
日曜日には、講壇の上にパソコンを置きます。そしてウェブカメラを牧師・司会者が見える位置にセットします。その後、YouTubeを開き、上記「1」の手順を行った後、「管理」をクリックすると上記の画面になります。次に「○○キリスト教会 礼拝ライブ中継」のところをクリックすると、上記「5」の2枚目の画面になりますから、あとは「ライブ配信を開始」を押します。
すると以下のような中継画面になります。この時点で、すでにインターネット上に中継が行われています。音声が正しく入力されていれば、マイクのレベルメーター(緑色)も右に振れるはずです。礼拝が終了したら、「ライブ配信を終了」をクリックして終了させましょう。これで配信は終了になります。
あとは毎週、「4」以降の手順を繰り返していくだけです。最初はやや難しく感じられるかもしれませんが、2〜3回行って慣れれば、簡単にできるようになるでしょう。
Ⅲ.会衆用カメラを追加する方法
次にご紹介するのはもう少し高度な方法です。
具体的にはカメラを2つ以上追加して、マルチアングルで行う方法になります。例えば、カメラAは講壇を、カメラBは会衆席を映すようにすると、会堂全体の雰囲気が分かるようになります。なぜこのようなことをするかというと、東日本大震災の際、私は仙台の教会にいてUStreamを用いてライブ配信を行いましたがその際、「講壇だけでなく会衆席を映してもらって皆の姿を見たい」というニーズがあったためです。礼拝は「キリストのからだ」としてのあり方が最も現れる時間です。その意味でも、会衆席が映っていることには意味があるでしょう。
1.必要なもの
上記「Ⅱ」の機材に加えて、
・増設用Webカメラ
が必要になります。USB接続の安価なもの(数千円程度)で充分かと思いますが、ポイントは最低でもHD画質(720p)、できればフルHD画質(1080p)であること、またレンズがある程度広角(100度以上、120度くらいが理想)であることです。具体的なオススメは、たとえば以下のような製品です。(※昨今のテレワーク励行により3/11現在、Amazonでは品切れになっています。他のショッピングサイトをご利用ください)
これを購入し、パソコンに取り付けて、講壇から会衆席の方を向かってセットします。例えば、私の奉仕している教会では以下のような感じで取り付けています。
なお、これまでの説明では、「本体内蔵Webカメラ+外付けUSBカメラ」という構成で説明してきましたが、上記の画像では、USBカメラを2つ使用しています。これはできるだけ正面からの映像を取得するためです。内蔵Webカメラの場合、講壇の真っ正面にパソコンを置くわけにはいきませんから、どうしても「斜め方向」からの画像になります。これは、閲覧者にとっては没入感を疎外します。それを避けるために、講壇中央前端にこのように2つのカメラをセットしているのです。
2.エンコーダ配信の設定
さて、次に行うのはYouTube Liveの設定です。実は複数のカメラを使用してライブ配信を行う場合には「エンコーダ配信」という方法で行う必要があります。具体的には、上記「Ⅱ-4」の画面で上部の「エンコーダ配信」をクリックします。すると、ウェブカメラ配信の場合とほぼ同じ設定画面が出ますので、同様に設定してください。終わったら右下の「エンコーダー配信を作成」を押します。すると、以下のような画面になります。
ここで重要なのは「●●●●…」で表示されている「ストリームキー」です。この一意のキーが、このあとのOBSの設定で必要になりますので、右のコピーのボタンを押してクリップボードにコピーしておきましょう。コピーしたら「完了」を押します。
3.配信ソフトウェア OBS の設定
次に内蔵ウェブカメラと外付けWebカメラの映像を合成し、映像を変換してYouTube Liveに送るためのソフトウェアが必要になります。最もメジャーで、かつフリーのソフトウェアとしてOBS(Open Broadcaster Software)が知られています。これをダウンロードしてインストールしましょう。起動した後、以下の動画を参考にして、カメラを二つ追加して下さい(※Macの場合です。Windowsの方はカメラの名称が異なると思いますが、適宜読み替えて下さい)。
上記のように行うことで、大きい映像で講壇を、小さい映像で会衆席を、それぞれ同時に映すことができます。また上の動画では右下に会衆席の映像を置いていますが、これをもっと大きく、画面上の別の場所に配置することも可能です。それぞれのニーズに合わせて検討して下さい。また「+」ボタンを押した際、「画像」を選べば画面上に常時画像を入れることもできます。創意工夫次第で良い映像ができますので、試してみて下さい。
次に、配信する映像のビットレートなどを設定します。ビットレートとは、簡単に言えば「1秒間あたりに送信される映像のデータ量」のことです。これが高ければ高いほど綺麗な映像を送信できますが、計算量や通信量も増えますので、高速なCPUやWi-Fiが整備されていなければ、コマ落ちや遅延が発生します。OBS画面右側下部の「設定」というボタンを押します。次に左の列から「出力」を選びます。続けて表示された画面で、以下のように設定してください。
上記の数値は高画質で配信する際の標準的な設定になりますが、もしコマ落ちやブロックノイズが発声する場合には、ビットレートを3,000Kbps、または2,500Kbpsに下げてみるのも良いでしょう(その場合は、下記の解像度を必ず1280×720にしてください)。
さて、OBSの設定はもう少し続きます。今度は、配信する映像そのものについてです。今度は左の列から「映像」を選びます。すると以下のような画面になります。
「基本解像度」は、OBSに取り込まれた映像の解像度です。上で紹介したフルHDのUSBカメラを使用している場合はここは「1980×1080」で良いでしょう。重要なのはその下の「出力解像度」です。高性能なパソコンを使用している場合は、ここも「1980×1080」で良いと思いますが、やや古いパソコンを使用している場合、CPUが熱を持ち、ファンが高速で回転してうるさくなる可能性があります。その場合はあきらめて、「1280×720」を選択しましょう。
次に、YouTube Liveの設定を行います。上記の画面で左側の列から「配信」をクリックします。すると以下のような画面になります。
「サービス」と「サーバー」はメニューから上記のものを選びます。その下の「ストリームキー」のところに、先ほどYouTube LIveのエンコーダ配信の時にクリップボードにコピーしたキーをペーストして貼り付けます(右クリックして「ペースト」を選ぶ)。
さて、最後に一つ、安定配信のために重要な設定を行います。これまでと同様に、左側の列から「詳細設定」を選びます。スクロールすると「ネットワーク」のセクションがありますから、その中にある「輻輳を管理するためにビットレートを動的に変更する(ベータ版)」という設定(下記参照)をチェックしてONにしてください。
この設定は、何らかの理由でWi-Fiの電波が途絶えたりした場合に、OBS側で自動的に転送量を絞ることで切断を防ぐもので、安定した配信のためにとても重要です。特に、礼拝のライブ配信は中断が極力少ないか、全く無いことが重要ですので、その意味でも上記の設定は重要になりますから、忘れずにONにしておいてください。
さて、ここまでの設定をすべて終了したら、右下の「OK」を押して設定画面から抜けます。これで、OBSの設定は完了です。
4.実際の配信
ここまで完了したら、今度は実際にYouTube Liveを開いて、配信を始めましょう。ブラウザーを利用して、YouTubeを開きましょう。オススメのブラウザーは Google Chromeです。SafariやFirefoxなどでも配信はできますが、安定性を考えるとChromeが最適です。開いたら、以下のように、画面上部の「ライブ配信を開始」のボタンを押しましょう。
すると、以下のように新しいエンコーダ配信の設定画面になります。
このあとは、上の「Ⅰー4」のところと同様に、ライブ配信の諸元を入力します。入力が終わったら「エンコーダ配信を作成」とします。すると、配信予定が作成されます。ここまでくれば、後は実際に配信を行う方法は、上記の単独のウェブカメラを使用した場合と同様になりますので、そちらをご覧下さい。
Ⅳ.応用編
さて、これまではWebカメラという、比較的安価な映像入力デバイスを利用した配信について解説してきました。これらは、ライブ配信の開始においては、十分な環境を整備することができると思います。しかし、これらはあくまで最小限度であって、よりよい環境を整備したほうが良いのは確かです。以下では、そのための方法をご紹介していきます。
A.音質を向上させる
まず、最も重要なのは「音」です。率直に言って、Webカメラが拾う音は、決して良いものとは言えません。会場の反響や雑音なども、そのまま拾ってしまいます。多くの礼拝堂には、最初から音響システム(PA)が整備されているはずで、講壇にもマイクが設置されていることでしょう。ですから、その音声を直接、配信用のパソコンに入力すべきです。
具体的には、「USB接続のオーディオインターフェース」を購入して、このインターフェースを介して音声をパソコンに取り込みましょう。一例を挙げると、以下のような製品です。
この機器の背面のUBS端子側をパソコンに接続し、正面左側のマイク(LINE)入力にマイクを接続します。具体的には、以下のような感じになります(写真は上の機種の上位機種のUMC22になります)。左端の端子にマイクが接続され、後ろからUSBケーブルが出ています。
これをOBSで利用するには、設定が必要になります。具体的にはOBSを開いて、以下のようにして、新しい音声入力キャプチャを追加します。
「音声ミキサー」のところに、左右のスライダがありますので、実際にマイクに向かって発声しながら、レベル調整を行って下さい。赤色まで行くと行きすぎです。理想は「ときどき黄色にとどく程度」にしましょう。これで、講壇で話す音声の音質を飛躍的に向上させることができます。
B.LiveShell Xを利用してPCレスで配信する
教会で礼拝の配信を行う際、牧師以外にパソコンに慣れている人が少なく、OBSなどの操作を行うことに不安がある、という場合もあると思います。そのような場合には、パソコンを介さずに、ビデオカメラだけで配信を行うことができる専用のハードウェアを使用することで、簡単に配信を行うことができるようになります。7〜8万円程度と、決して安価ではありませんが、簡単に配信できるというメリットは、何物にも代えがたいものがあります。資金面で余裕があれば、検討すると良いでしょう。
具体的には、以下の2つの機種が手軽でしょう。
手の平に載るほど小さいLive Shell Xは、フルHD配信、マルチ配信、バッテリー駆動可能、SDカードへの録画可能など、 必要な機能をほぼ一通り備えています。実際に手の上に乗せてみると、以下のようになります。
左上のボタンが電源ボタンになります。設定次第では、このボタンで電源を入れると、すぐにYouTube Liveでの配信を始めることができます。そう、ボタン一つ押すだけで配信がはじまるのです。これは他の方法では決して得られない手軽さと言えるでしょう。(但し、Live Shell Xは設定方法がやや特殊な面があり、最初の設定だけは、あるていど知識を持った人が実施する必要があると思います。)
この機械と組み合わせるビデオカメラとしては、HDMI出力があるならば何でも可能です。安いものでは新品でも2万円台から売り出されています。接続用に標準的なHDMIケーブルが必要ですので、併せて揃えましょう。
なお、配信の際、大きいテレビ画面でも映像を確認したいというニーズもあることでしょう。そのような場合は、HDMI映像を分割するスプリッターを組み合わせると良いでしょう。(Amazonなどで「HDMI 分配器」と検索すると、1500〜3000円程度で入手可能です。フルHD対応のものを選びましょう)
C.ビデオスイッチャーを利用する
さて、Live Shell Xの他にも、単体でYouTube Live配信を行うことができるハードウェアは存在します。それが、Blackmagic Designが2020年になって発表した「Atem mini Pro」です。
Atem miniは、いわゆる「ビデオスイッチャー」と呼ばれる映像機器であり、これ一台で複数のHDMI入力を切り替えたり、合成したりして、一つのHDMI出力にまとめて出力できます。これの何が良いかというと「複数台のカメラ、パソコンなどを状況に応じてボタン一つで切り替えながら配信が可能」ということです。大きい教会などは、単独のカメラで流しっぱなしにするよりも、角度の異なる複数のカメラを利用することで、飽きの来ない映像作りが可能です。スイッチャーは、そうした用途に最適です。
また、Atem mini Proは、下位モデルのAtem miniのスイッチャー機能に加えて、単体でYouTube Liveに配信が可能という、非常にすぐれた利点を持っています。その分価格も高めなのですが、単体での配信可能な点は、それを補って余りある利点といえるでしょう。(但し、Live Shell X同様、新型コロナによる世界的需要増により、非常に手に入りにくくはなっていますが・・)。
D.スマホをWebカメラとして利用する
さてこれまでは音響面と、PCレスでの配信の方法を書きました。ただ前述の通り、USBオーディオインターフェースは入手できますが、ビデオスイッチャーはテレワーク需要の高まりによって全世界的に品薄が続いており、今後もなかなか入手できる見込みが立ちません。それでも、少しでも良い映像を届けたいと考えるのは人情というものです。そのために、どうすればいいのでしょうか。一つの解決策は、
「スマホをカメラとして使用する方法」
でしょう。最近のスマホには最低でも1,000万画素を超える高性能のカメラが内蔵され、AIを駆使して極めて綺麗な映像を生み出すシステムが搭載されています。これを、配信時のカメラとして利用するのです。具体的には、スマホを有線または無線でPCと接続し、OBS(上述)の入力として利用する方法がもっとも手軽でしょう。
そのためのソフトウェアとして知られているものに、以下があります。

このソフトウェアは米国NewTek, Inc.社が開発した、ネットワーク上の映像伝送プロトコル「NDI」をiOS機器で簡単に送信できるようにしたものです。なんと、このアプリは新型コロナ対策のため2020年5月末まで無料で公開されています。ぜひ取得されることをオススメします。(iOSの画面をキャプチャする NDI HX Capture という姉妹アプリも同様に無料になっているので、この機会にゲットしましょう)。
さて、上記アプリをゲットしたら、今度はOBSにNDIからの映像を入力するプラグインをインストールしましょう。以下のところから、ご自分のOSに合ったものをダウンロードします。
Windowsの場合はインストーラーがすべてやってくれますが、macOSの場合は本体のほかにランタイムと呼ばれる補助ソフトもインストールしなければなりませんので、併せて行いましょう(2020/5/27現在の最新版は4.9.0です。「mac」と書いてある所の説明に従ってインストールして下さい。より新しいバージョンが出ているかもしれませんので、必ず上記のカードのところからチェックして下さい)。
インストールしたら、OBSを開きます。「ソース」のところにある「+」を押すと、以下のように「NDI Source」という選択肢がありますから、これを選びます。
このあと、手持ちのiOSデバイス上で「NDI HX Camera」アプリを起動します。すると以下のような画面表示になります。
真ん中の「NDI」と書かれているアイコンが青になっていれば、PCと接続する準備が整っていることになります。アイコンの意味は右から順に「設定」「画質(ゲージが4時の方向が最高)」「インカメとフロントカメの切り替え」「マイクON/OFF」「枠線表示」「フラッシュライトON/OFF」「露出」となります。左端の縦長のバーはズームです。
さて、この状態でOBSに戻り、NDI Source を追加すると、お手持ちのiOSデバイスの名前が表示されますから、それを選択します。すると、以下のようにOBS上にiOSのカメラが撮影している映像をリアルタイムで取り込むことができます。
あとは、iOSデバイスを講壇の正面など、任意の場所に三脚を使用して設置すればOBSのカメラとして利用することができます。なお注意点として、バッテリーの持ちはどれくらいか、ということがあると思います。
手元で簡単に測ったところ、iPhone 11の場合は1時間で25%弱のバッテリー消費となりました。これくらいであれば、礼拝の中継用途には十分ではないかと思います。不安があるようでしたら、ACアダプターやモバイルバッテリーを接続しておけばよいでしょう。
また、iOSデバイス⇒PCへの接続は Wi-Fi で行われますから、Wi-Fiの電波が弱いところでは接続が不安定になる恐れがあります。経験上、OBSでの配信のトラブルの大半はWi-Fiの電波の不安定さに起因するものです。アクセスポイントの位置を見直したり、中継器を導入したりして(後述)、電波の質の向上をはかりましょう。
なお、ここまではiPhoneなど iOS 機器を前提に書いてきましたが、Androidにも類似のソフトウェアはあります。有名なのは DroidCamです。以下のページに解説が書かれていますので、Androidを所有しておられる方は、お試し下さい。
E.Wi-Fi環境を改善する
さて、これまでは音響と映像という、絵作りの中心となる要素について述べてきましたが、以外に見落とされがちなのが、その絵を視聴者に向けて送る「経路」、つまりWi-Fi 回線の品質の問題です。SNSなどでも「OBSで配信していて切れてしまった」という相談は非常に沢山上がっています。私はその多くが、Wi-Fi回線の品質が低いために引き起こされている、と見ています。Wi-Fi 回線の質をチェックするためには、スピードテストサイトを利用しましょう。例えば、オンラインビデオ配信で有名なNetflix社が提供している fast.com などが良いでしょう。

上記のスピードテストは、1回ではなく5回程度実行した平均値を取りましょう。その上で、平均値が最低でも20Mbps、できれば50Mbps以上出ているのが理想です。20Mbps以下のスピードしか出ていない場合は、YouTube Liveの配信にて切断が起こる可能性が高いと言えます。30Mbps程度でも油断はできないでしょう。安全なのは50Mbps以上です。
そして、上記に満たない場合は、以下のチェックリストにおいて該当するものはないか入念にチェックし、ある場合は、以下で解説していく対策を実行して、Wi-Fi環境を改善しましょう。
- 外付けWi-Fiルーターではなく光回線ルーター付属の Wi-Fi カードを使っている
- 直近で5年以上、Wi-Fi ルーターを買い換えていない(古い規格)
- Wi-Fi ルーターが2.4GHz帯(802.11b/g/n)にしか対応していない
- Wi-Fi ルーターから配信用のPCまでの間に壁が2枚以上ある
- Wi-Fi ルーターから配信用のPCまで距離にして7〜10m以上離れている
- Wi-Fi ルーターとPCの間に鉄筋コンクリートの壁がある
- 礼拝堂がツーバイフォーで出来ていて壁に大量の断熱材が入っている
- Wi-Fi ルーターとPCとの間に電子レンジがある
- 教会の電話に 2.4GHz 帯を使用するコードレスホンを使用している
- 教会近隣の家屋と使用しているWi-Fiチャンネルがかぶっている
上記のうち1〜3については、新しいWi-Fiルーターに交換することで解決できます。交換用として個人的にオススメしたいのはNECのAtermシリーズです(もちろんBuffalo、IO-DATA、Netgear、Asusなどでも良いでしょう。TP-Linkは非常に安いのですが中国メーカーのためセキュリティ的に不安が残り、積極的にはお勧め致しません)。現在市販されているWi-Fiルーターはほぼ全て5GHz帯にも対応していますが、念のため確認しましょう。最近では Wi-Fi4 や Wi-Fi5 、あるいは Wi-Fi6 という表記も見られます。この場合は最低でも Wi-Fi5 以上のものを選びましょう。
次に4〜7については、大元のWi-FiルーターとPCとのほぼ中間地点あたりに「Wi-Fi中継器(エクステンダー)」を設置して、電波を増幅すれば解決できます。価格も3,500円程度と安価ですから、やらない手はありません。具体的には、例えば以下のような機種がよいでしょう。
このエクステンダーは、下の写真のように手の平に載るほど小さいです。これをコンセントに挿しておけば電波も向上します。
では、上記のチェックリストの8や9については、どのような対策が必要でしょうか。まず8からですが、実は、電子レンジの使用する周波数帯は 2.4GHz 帯であり、2.4GHz 帯を利用する Wi-Fi とモロに競合します。ですから、2.4GHz帯の利用はやめて5GHz帯に変更することで回避できます。古いパソコンでは 2.4GHz帯にしか対応していないものもありますが、その場合は本体を買い換えるか、USB接続の5GHz帯対応Wi-Fiアダプターを利用することで対応できます。
次に9のコードレスホンですが、解決策はやはり上記の5GHz帯を利用するのが最も簡便と思われます。但し、2011頃から「DECT対応」のコードレスホンが登場しています。これは1.9GHz帯を利用するため、2.4GHz帯のWi-Fiと競合しません。もしお金に余裕があるのであれば、コードレスホンをDECT対応の機種に交換するのも良いでしょう。
最後にチェックリストの10についてですが、問題は特に2.4GHz帯で顕著になります。なぜなら、2.4GHz帯の場合隣のバンドと重複せずに使用できる組み合わせはわずか3通りしかないからです。5GHz帯ではこのようなことがありません。その意味でも5GHz帯にスイッチすることが重要でしょう。それと共に、最近の新しいWi-Fiルーターは自動的に混雑していないチャンネルを検出して、使用チャンネルを動的に変更する機能を持っているものが多いです。その意味でも、新しいWi-Fiルーターに交換しましょう。ただ、ルーターを更新する予定が無い場合で、使用チャンネルを可視化して手動で設定したいというニーズもあると思います。その場合は、例えば以下のような無償のツールを使用しましょう。
上記はmacOS専用のソフトになります。インストールして起動すると、以下のような画面が表示されます。(※プライバシーのため一部加工してあります)
上記の画面を参考にしながら、空いているチャンネルに設定しましょう。一方、iOSデバイスの場合は、

をインストールします(無償)。「設定」アプリから「AirMac」を選び「Wi-Fiスキャナ」をONにしておきます。その後、AirMacアプリを起動し、右上の「Wi-Fiスキャン」を押すと、電波の強い順にアクセスポイントが表示されますから、ここで空いているチャンネルを把握しましょう。
Androidの場合は、以下のアプリが非常に便利でお勧めです(これも無償)。
上記のアプリを利用して、近隣の家屋で使用されているチャンネルから離れたチャンネルに設定すれば、Wi-Fiの電波が確実に安定するでしょう。そして、ここまで書いてきたような対策を地道に行えば、少なくとも Wi-Fi が原因で OBS による YouTube Live 配信が切断するという問題は、非常に起きにくくなるかと思います。ぜひお試し下さい。
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