“クラウド”はバラ色の世界を提供するか?

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「クラウド」、という言葉を聞いたことがあるでしょうか。少しIT系のニュースサイトなどを見ていると、この言葉が出ない日はないほどですが、そうでない方は余り目にすることがないかも知れません。クラウドとは、「クラウド・コンピューティング」の略で、簡単に言うなれば、「従来手元にあった情報を、インターネット上のサーバに置くことによって、時間・場所・環境を問わずに利用するための技術」と言えると思います。インターネットが誰にでも手の届くものになってから久しいですが、特にスマートフォンやiPadなどの登場に伴って、ここ1,2年で急速に利用形態が広がってきている技術です。

抽象論だけ言ってもピンと来ないと思うのでクラウドの具体例を出すなら、「Gmail」、「Hotmail」、「Yahoo!メール」などのWebメール、「Google Docs」、「Drobbox」、「Flickr」、「Tumbr」、「Evernote」、「ウィルスバスター・オンラインスキャン」などのオンラインツール、「mixi」、「Facebook」、「GREE」などSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)。これらはみな、多少の違いはあれど、クラウド・コンピューティングの実例と言えます。便利なものばかりであり、使用している人も多いと思います。かくいう私も、上記のうち幾つかを利用しています

けれども、クラウド・コンピューティングを利用する際には、常に注意しなければならないことがあります。それは、プライバシーの問題です。クラウドでは、程度の差こそあれ、必ず「オンライン上にデータを置くこと」が伴います。それは、裏を返せば「運営会社に対して個人情報を無条件でさらしている」ということです。

あなたにはその認識があるでしょうか。もちろんこれらの会社は「暗号化して保存しているのでセキュリティは万全!」とうたっていることでしょう。けれどもその「暗号化」とは、「データを会社のコンピュータに送るネットワーク経路の暗号化」であり、また「会社のサーバに保存する際の暗号化」に過ぎないのであって、「あなたがクラウド上に置いたデータをあなた以外誰も見られないようにしているという訳ではない」、ということを知っておかねばなりません。

というのは、クラウドの運営会社は、あなたからのデータを受け取ってから、暗号化してサーバに保存するまでの間、自由にあなたのデータを覗き見ることができる、からです。たとえその会社が「お客様のデータは責任を持って管理し・・」といくら宣ったとしても、名目だけの話である可能性は常に潜むのです。その意味でクラウドというのはいわば「性善説」の世界です。私たちは、「彼らがそう言っているから見ないだろう」と期待しているのに過ぎないのです。彼らは見ようと思えばいくらでもあなたのデータを見ることができる、のです。

そのような懸念が、先週、クラウド・コンピューティングを提供する会社のCEO自身の過去の発言が公になったことによって顕在化してきています。

FacebookのCEO、19歳の頃からプライバシーなんて気にしてなかった疑惑 : ギズモード・ジャパン

詳しくは上記の記事を読んで頂きたいと思いますが、内容は要するにFacebookのCEO自身が、過去に利用者のメールアドレスや個人情報を故意に流失させていた可能性を示唆する暴露記事です。もちろん、単なるゴシップ情報にすぎない可能性もあるのですが、当のFacebook自身が明確に否定していない以上、可能性はあると受け止めるべきでしょう。 文脈は異なりますが、同様に1~2週間前に話題になった別の記事ではこのようなものもありました。

Googleが無線LANの通信内容を傍受、手違いを認め謝罪

この記事では、Google Mapsにある「ストリートビュー」で使用する為に無線LANのアクセスポイントの情報も収集して回っていた際、暗号化していないネットワークの情報を誤って収集してしまった、というものです。無線LANを暗号化せずに使用したり、あるいは暗号化していたとしてもWEPという最弱の暗号化だけで済ませている場合は、「どうぞ覗いてください」と言わんばかりの行為だということが、これで明らかになったかと思います。

けれども恐ろしいのは、そのようにしてGoogleが収集した個人情報が何に使われるのか分からない、ということではないでしょうか。ここでも性善説の立場に立つしかないのでしょうか。 言うまでもなくGoogleは、クラウド・コンピューティングにおいて最も成功した会社であり、現在も精力的に新しいサービスを提供しています。その多くは私たちを益するものですが、同時に私たちはGoogleに個人情報を日々提供しているという自覚を持つことも忘れてはならないのです。

私は10年近く前、Googleが、「Gmail」を始めたとき、そのシステムに魅力を感じたものの、「Googleがメールの内容を機械的にスキャンして、その内容に近い広告を表示する」という方針を採っていることに驚き、それ以来、Gmailをメインのメール環境に使うことは決してしない、と決めたのです。

クラウドを利用するということは、個人情報の管理を相手の会社に委託する、ということです。そういう自覚を持って、注意深くクラウド上に置くデータを取捨選択するのなら良いと思います。けれども、無条件にクラウド提供会社を信頼するのはあまりにも無邪気すぎます。たとえその会社に悪気はなくとも、悪意ある犯罪者がセキュリティを突破してデータを根こそぎ持って行く可能性もあるのです。

mixiの日記にしても、同じです。「友人まで公開」に設定していたとしても、その「友人」には、「株式会社mixiの関係者」も自動的に含まれているのです。そういう自覚を持たないで、mixi上に重要な個人情報を載せるのは、危険な行為だと言わざるを得ません。

「そんなに疑ってどうするんだ」とか、「それじゃあ何にも利用できなくなるではないか」と思うかも知れません。けれども、キリスト者というのは、「この世」に対しては、常にその成すことを注意深く、時には懐疑的に見ていなければならない、ということを忘れてはならないと思います。

それが、主イエスが言われた、「蛇のようにさとくあれ」ということの意味ではないでしょうか。

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